最高裁判所第二小法廷 昭和22(オ)14 判決
主 文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理 由
上告人Aの上告理由書第一点原審ハDノ所有家屋ヲ取毀チ其材料ヲ以テ本件家屋
ヲ再築スルニ際シ所有者ヲDノ債権者E「Eハ此家屋ヲ管理シ其收入ヲ以テ(一)
管理費ヲ支払ヒ、(二)Fニ対スル債権者自己G及H、I間ニ分配シテFノ該債務
弁済ヲ補フコトトシタルガ後日Eノ発病ト不便ノタメ右関係者四名協議シ合意ノ上
該家屋管理事務ヲGヨリIニ委託シ之ヲ皆ガ承認シタ、之レハG等三名ノFニ対ス
ル債権確保ノタメデアルカラ右関係者ノ一人ニ過ギナイEノ死亡ニヨリテハ受託者
Iノ管理権喪失セズト認定シテ上告人ノ主張ヲ棄却シタガ然ラバ前提トシテDニ対
スル三債権者殊ニH、Iノ債権ガ昭和四年甲第十二号証承認ノ如キ古キモノガ同十
七年迄現存セシヤ之レガ調査判断ナクシテ該受託管理権ノミ過大ニ延長トスル速断
ハ失当ナリ。原審ガ三債権者ノ債権確保ノタメナレバトシテ根底ヲココニ置ク以上、
若シ債権ガ消失シ居タラバ確保ノ要ヲ見ズ、而モ被確保債権ガGノ債務金ニアラズ
シテFノ債務金ニ属スル点トソレガHノ二千八百円Iノ二千五百円計五千三百円ナ
ルニ対シ本件ハ金七千七百七十六円九十八銭即チ超過ス、此超過ニモ尚確保ノ要ア
リトスルハ確保トスル前提ニソゴアル受託存続容認ハ理由ソゴ理由不備、ソハ畢竟
釈明不尽審理不尽ノ結果法理違反ト信ズ。第二点家ノ所有権ハ所有者Dニ於テノミ
之ヲ有効ニ処分シ得ベクDノ債権者H、I、GハFノ所有権移転ニ詐害取消権ヲ行
ヒ得ンノミ、従テ甲第十二甲第十一号証ニ此三債権者ガF所有家屋ニ付FヨリGヘ
移転スベキ契約ニ参与シ」合意スル所アレバトテ元来其権限外ナル所有権移転ノ部
分ニ付テハ該参与、合意ハ単ニ只其権限内ナル詐害取消権ヲ行ハナイト云フ意味ノ
ミサレバGガFノ承諾ニヨリ家屋所有権ヲ取得シ其收収得金ヲ以テH並ニIヘFノ
- 1 -
負債消却ヲ引受ケ仮リニモ此債務違反アレバトテ、Gノ該家屋所有権ナル物権ニ何
等ノ掣肘ヲ及ボサズ原審モ甲十二甲十一モ該制限付取得トセズ、Gノ所有権物権ヨ
リ生ズル管理收益権之ニFヤ其債権者(Gニ対スル債権者ニモナツタ)HヤIガ合
意スル所ガアツタトシテモ各自己ノ立場自己ノ権限以外ニ迄合意ノ意味ヲモタナイ
即チGガ管理收益権ヲIニ委託ハ「Gノ委託デアツテFヤHヤIノ委託デハナイ」
G以外ニ該委託管理権者ハナイ事体ニアツタカラデアル、HヤF、Iノ参与合意ハ
各異議権アルナラバ異議権抛棄ノ意味ノミ原審引用ノ一審J、同I(第一回)及ヒ
二審Fノ各証言モEカラIニ頼ンダトアリ然ラバEノ死ニヨリ該委託が消滅招来ハ
委任ノ法理民六五三条明カナリ、然ルニ原判決が委託消滅セズト為シタルハEノ債
権者I、K又Dノ委託権加入アリトスル錯覚ニシテ前示各立場各其権限以外ノ力ヲ
認メタ根本的誤解デ法理ニ反スル失当デアル、殊ニEハHヤIト同列Fニ対スル債
権者デアルカラ自己ノ債権ノ範囲内丈デモIヘノ委任ハ死亡ニヨリ消滅セザルヲ得
又此復雑ヲ民六五一条ト異レル民六五三条ヲ誤解シタモノデアル。第三点原審ハI
がG所有家屋ノ管理ヲGカラ委託セラレタ併シ自ラ管理事務ヲ行ハズニLニ再委託
ヲシタ、従テLヤMが其管理ヲシテ收メタ家賃ハIノ委託又ハIノタメニシタ管理
デアルカラGノタメノ管理デナイト認定シタガ、(一)Lヘノ再委託ハG等ノ許シ
テヰナイ復代理デ民一〇四条G等ハ再委託復代理権ヲ否定スル従テLノ管理ハGト
シテIノタメト認メ得ヌ(法理上モ)(二)Mノ管理ハ原審モIノ委託ニヨルモノ
ト認メテヰナイ、(三)従テLヤMガIノ為メニ勝手ナ管理ヲ遂行シタト仮定スル
モIノ所有家屋ニアラザル事ガ判ツテ居ル本件デハ「真ノ権利者デアリ所有者デア
リ所有者デアル又I、委託シタ本人デアルG」ノタメデアル事、間接否直接ニモ予
想シ得ル所デアル。(四)加之復代理ガ本人Gニ対抗シ得ヌ事前示ノ通リナルガI
L間ニ於テ其委託ガ再人間ニ於テノミ有効トスレバ尚更復代理ニヨル管理行為ノ効
力ハ本人Gニ帰属スベキ事民一〇七条当然ナレバGトシテハ右当然ノ帰属ヲ否定ス
- 2 -
ル所ナレドモLトシテハ本人Gノタメノ管理(民一〇七条)ト法律上断定セザルヲ
得ヌ、(五)殊ニ事務管理ニ於ケル所謂本人トハ真ノ権利帰属本人デアル之ヲ客観
的ニ定メル必要ガアル管理者ノ主観人物ヲ本人ト定メラレテハソレガ必ズシモ真ノ
権利者デナイ場合ニ、真ノ権利者カラハ手モ足モ出ナイ、主観サレタ人物カラハ真
ノ権利ナキタメ請求シ得ヌカラ管理者トシテハ大変ニ都合ノヨイ事ニナリ得ルト云
フ欠陥ガアル、従テ原審ガIノタメノ管理ダカラGノ管理デナイカラGカラIニ計
算ヲ求メルナラ格別被上告人ニ取立家賃請求ヲ認メヌトスル原審ノ御判断ハ、(六)
自ラ一回モ受託管理ヲ行ハヌIニ計算ヲ求メタ処デ〇ハ〇デ其必要ノナイ愚ヲ求ム
ル利益ノナイ所デアリ、(七)又事務管理ノ本人ヲ管理者ノ主観ニ定メタ失当ノ法
律違背デアル、(八)況ンヤ原審引用ノN、O、PヤMノ供述デハ事実家屋賃貸借
契約ノ当事者ハL及MニシテIハ名実共ニ無関係デアリ而モ取立タ家賃ハ一文モI
ニ渡シテヰナイトアリテ法律上、事実上名実共ニIノタメデナイ事ヲ示シテヰルノ
ニ原審ガ前示反対ニ認定ハ虚無ノ証拠判断ト云フヘク明カラ法令違背デアル。と云
ふのであるが、原判決の認定するところによれば、本件契約というのは、訴外Dに
対する債権者E、H、Iが債務者Dと協議の上、Fの所有に属する本件家屋を登記
簿上Eの所有名義とし、I、Hはその上に抵当権の設定を受け、この家屋はGが管
理して他に賃貸し、その取立てた家賃の中から、原判示のような分配の割合で、お
のおのの債権の弁済に充当してゆくという契約である。その後Gの病気のため、ま
た、以上四人の協議の上、家屋の管理をIに委託したということも原判決の認定す
るところである。
一、右の如く本件契約の趣旨は以上債権者等の債権確保の目的でなされたもので
あるから、右の各債権が完全に弁済を受けた上は、本件契約は、その存在の理由を
失ふことは所論のとおりであるけれども、右の各債権が弁済によつて消滅したとい
うことは原審において、上告人のすこしも主張しなかつたところであるから、原審
- 3 -
がこの点について、判断しなかつたのは違法でない。
二、以上の如くはじめこの家屋の管理にGがあたり、後にIがこれを引き受けた
のも、以上四人協議の上のことであつて、単純に、GからIにその管理を委任した
という関係でないのであるから、Gが死亡したからといつて、直ちにIの管理権が
消滅するものでないと判断した原判決は正当である。論旨はGがIに家屋の管理を
委任したという原判決の認定せざる事実を前提とする立論であつて当を得ない。況
んやGの死亡によつてGの債権の範囲だけでも委任は消滅するというのは本件契約
の趣旨を正解せざる議論であつて、とるに足らないのである。
三、原判決の認定した「Iが妻Lに家賃の取立を委託した」というのは、Iがそ
の家賃取立の事実行為を自己の補助者として妻Lに托したという趣旨であつて、も
とより復代理の法律関係を生ずべき限りでない。右の関係をもつて復代理なりとす
る所論はまた理由がない。
四、原判決は、本件においては、前に述べたような契約の趣旨に従つて、Eは家
屋の所有名義人ではあるけれども、所有権者の実はなく、家屋管理の権能は、あげ
てIに委任せられているのであるから、本件家屋の管理行為、従つてその家賃取立
の事務はIの事務であつて、Eやその相続人の事務でないと判断したのである。な
るほど、原判決は本件事務管理者はIのためにする意思を以て、家賃の取立をした
と認定したことは相違ないけれども、その意思を基準として、本件事務管理の事務
はIの事務であると判断したわけでないことは、原判文の全体を通読すれば、極め
て明白である。であるから、原判決に管理者の主観に従つて事務管理者の事務の帰
属を定めた違法があると主張する論旨も採用することはできないのである。以上の
理由により論旨はすべてその理由がないから、民事訴訟法第四百一条、第九十五条、
第八十九条を適用して主文のように判決する。
右は裁判官全員の一致した意見である。
- 4 -
最高裁判所第二小法廷
裁判長裁判官 霜 山 精 一
裁判官 小 谷 勝 重
裁判官 藤 田 八 郎
- 5 -